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―山内一豊を演じて大変だったことは?
物語が16歳の少年時代からはじまるんです。そのとき僕は40歳になろうとしていた時期で、40歳で16歳を演じる抵抗感は大きかったですね。申し訳なさを感じながら演じました。
ですから一豊の性格を理解するとか演技プランを練るのはもちろんのこと、最初はいかに「若者になるか」を考えていました(笑)。でも、それ以外は何ひとつ抵抗なくできました。
―武田鉄矢さんと前田吟さんと上川さんのやりとりがおもしろいですね。
お二人は冒頭のシーンからそうでしたが、とにかくお芝居に対するアイディアが尽きないんですよ。
信長を追いかけていった後で、寝っ転がって不貞腐れるシーンでは、そばに草がある、石がある、よし使ってみよう、やってみようということで、その場にあるものをどんどん取り入れて演じられたり、僕にもいろいろアドバイスしてくださって、その貪欲さは本当に勉強になりました。
―アドバイスとは?
「僕らのことは気にしなくていいから、顔に草をぶつけなさい」とおっしゃって、僕も遠慮なくぶつけさせていただきました(笑)。
撮影は終始そんな感じで、みんなでコミュニケーションをとりながら、アイディアを出し合ってつくっていました。本当に楽しい現場でした。
―仲間由紀恵さんのちょっとほわんとしているところが聡明な千代の役にぴったりで、直情的な上川さんの一豊と非常にいいコンビだと脚本家の大石静さんがおっしゃっていました。
実際の撮影現場でのお二人はどんな感じでしたか?
例えばリハーサルでもやらなかったアドリブを、スタジオに入ってテストで仲間さんにいきなり振ったとしても、仲間さんはきちんと受け取ってくださるんですよ。お芝居をするうえで彼女と相談したことはないんですが、そうしたアイディアをうまく取り込んでいくところは、最初のシーンで武田さんや吟さんが見せてくれたことが、間違いなく核にあったと思います。
―それを象徴するシーンは?
一豊が出世する前の、まだ小さな小屋に住んでいた頃の湯浴みのシーンですね。
僕がたらいの中に入って、千代が僕にお湯をかけてくれるんです。
それが"お湯"ではなく"水"で死ぬほど驚くというシーンなんですが、あれも水にしようと現場で言ったんですよ。だから水をかけた後の会話は台本には一切なくて、全部アドリブでやらせていただきました。そうしたことは日常茶飯事でしたね。
―少しのほほんとした一豊もチャーミングでした。
あのキャラクターは最初から固まっていたんですか?
現場のやりとりの中でつくられていったものですね。
例えば小りんとのやりとりの中での狼狽ぶりも一から十まで計算されたものではなくて、現場で武田さんや吟さんとご一緒させていただいたからこそ出てきたものだし。
とにかく武田さんや吟さんは、衝立をどこに置くかでもさんざん遊ばれるわけですよ(笑)。
それを目の当たりにしちゃうと、僕もそれに乗っかっていきたいし、それが楽しい現場でしたから。
―最後に番組をご覧のみなさんにひと言
「功名が辻」は僕が演じる山内一豊が聡明な妻・千代の知恵を借りて、信長、秀吉、家康に仕えながら、一国一城の主へと成長していく物語です。浪人から大名に駆け上がっていく一豊の出世ぶり、そして千代との夫婦愛をどうぞお楽しみください。

―三津五郎さんの明智光秀役は、脚本家・大石静さんのたっての希望だったとか。
大石さんには「功名が辻」の10年以上も前から、いわゆるトレンディドラマをいっぱい書いていらっしゃる頃から「ぜひ一度」と言われていたんですよ。
ただ「功名が辻」に関しては、わざわざ歌舞伎座の楽屋にまで来られて「ぜひ出て欲しい」とおっしゃるんです。
私はどうしても歌舞伎が忙しいものですから、3ヵ月も舞台を休むのが厳しくて迷っていたんです。
でも脚本家がわざわざ楽屋にまで来られるなんて例のないこと。
そこまで言われるのは役者冥利に尽きるということでお受けしました。
―知性の塊のような光秀をセクシーに演じて欲しいということで、
大石さんは三津五郎さんにお願いしたとおっしゃっていました。
光秀という人物の新たな一面を大石さんに気づかせていただきました。
光秀は朝廷の儀式とか古典の教養にも通じている人物です。
一方の織田信長は自分の価値観でどんどん世の中を変えていく革新者で、それについていけなかった古めかしい男というイメージが光秀でした。
でもこのドラマで演じてみて、光秀はいままでの価値観をすべて壊していった信長、あるいは戦国という時代に対して、悪しきところを変えるのはいいんだけれども、良き日本の文化とか美意識とかも消えていってしまうことには耐えられなくて最後まで抵抗した人物だったんじゃないか。
人に裏切り者と呼ばれても、それでも朝廷や日本の文化、美意識というものを最後に自分が守らなければと思って実行した人物だったんじゃないか、と思うんです。
そこに大石さんは光秀の人間的魅力を感じて、深い教養と大人の色気を漂わせた光秀像が生まれたんだと思います。
―ドラマの中の光秀の役割は?
光秀は最後の最後まで耐えた男なんですね。ドラマの中でもセリフは極端に少ない。
物静かで無口な男ですから、信長に対しても信長の奥さん濃姫に対しても、ジッと聞いている芝居が非常に重要でした。
ですから耐えて、耐えて、耐えて生きたにも関わらず最後に信長を討つという行動をとってしまっては、今まで耐えたことが無になる。耐えるんだったら最後まで耐えろということを山内一豊に伝えて死んでいくのが、このドラマにおける光秀の役割です。
現実には一豊と光秀が今際の際に接したというのは多分ないと思うんですけれども、このドラマの設定ではそういう風になっていますね。
―思い出に残るエピソードは?
濃姫とのシーンですが、光秀は本当に多くを語らないんですよ。
例えば「もしあなたと生きていたら...」といまさら言ってもしょうがないことを言う濃姫に対して、それをジッと聞いている光秀は目で「そういうことは言うべきではない」というようなシーンがあるんです。
そこで若い演出家はどうしてもセリフをしゃべっている濃姫を映すんですよ。
そのときに大石さんが、
「何もわかってないわね。ここは聞いている光秀の顔が大事なのに」
とおっしゃって怒っていた(笑)。
私も受けでいい芝居をしていたなと思っていたんですが、モニターを見ると映っていない。
残念だなあと思いながら演じていたんですが、少し経ってから私の受けの芝居も映してくれるようになりました(笑)。
本当に光秀はセリフが少ないんですよ。台本を見ても「光秀...」が多い。
だけど実はそこにはすごい心の葛藤があって、胸に秘めた熱いドラマがある。
光秀に関しては、そこも見どころのひとつだと思います。
―最後に番組をご覧のみなさんにひと言
「功名が辻」では新しい光秀像に加え、信長の奥さん・濃姫との秘められた恋やそれに影響を受けて戦国時代を夫婦手を取り合って生きていく山内一豊と千代など魅力的な人物がたくさん登場します。
ぜひ続けてご覧ください。光秀を見てください。耐える男の仕草がたまりませんよ(笑)。

―太地喜和子さんと最初に出会ったのは?
「近松心中物語」の衣装合わせのときですね。
稽古場で彼女に衣装を見せたら、「わあ、地味ね」と言われて(笑)。
「こんな地味な着物は着たことないわ...」と戸惑っているので、「とにかく着てごらんなさい」と着せたんです。
そのときは本番と同じように照明をあてて稽古したんですが、照明があたったらガラッと着物の色が変わったんです。それを見て彼女すごく感激して(笑)。
当時は照明の精度が段々よくなってきた頃で、衣装の色加減がものすごく難しかったんですよ。
昔のように赤が赤に見えなくなっていて、赤に見せるためにはむしろ茶色を着せた方がよかったりしたんです。
他の色との合わせ方によって、例えば反対色を入れることで初めてお互いの色が発色するとか、そういったことが衣装をつくる人たちの間でもまだわからなかった頃でしたから、彼女もびっくりしたんでしょうね。
―そのときはどんな色を選んだんですか?
グレーです。しかも柄もすごく抑えたから、本当に地味に見えたでしょうね(笑)。
いつも着物を選ぶときに言うんですけど、その人自身が自分の"色"を持っているんですよ。
太地さんの"色"はすごく派手で、そこに派手な色を持ってくると本人の"色"を消しちゃうんです。
では引き立たせるためにどうするかというと、地味な色で抑える。そうすることで彼女の派手さが前にパッと出てくるんです。
―太地さんとはそれから親友に...。
気が合ったというか、太地さんと杉村(春子)さんと3人でよく飲みに行っていました。
太地さんは結構強引で派手好きな人でね。
夜中の2時3時でも電話をかけてきて、「寝てる?いいから早く出て来い!」と言うんですよ。それで僕がのそのそ起きて出て行くような状態でした(笑)。
―飲んでいるときの太地さんは?
飾らないというか、もうオープンですよね。
オッパイなんか平気で触らせますからね。遠慮すると「てめえ、この野郎」と言って、僕の手を引っ張って自分の胸に入れちゃうの。それで「揉んで」って(笑)。
それがなんともまた、あの人の不思議な魅力になっていましたね。
―どんな女優さんでしたか?
あの人は、存在そのものが色気でした。
どういう仕草をしていようが、色気を感じちゃうんです。
だから、女優さんとしてもものすごく存在感がありましたよね。
―そんな彼女が伝説のように、女優の盛りで亡くなられました。
ちょうど亡くなる一週間前に一緒に飲み歩いていてね。
「帰ってきたら、唐人お吉を観てね!」と言われていて、楽しみにしていたんですよ...。
お酒が好きな人でね。お通夜の日は他で仕事があって着替える暇もなくて、でもとにかく一升瓶を持って文学座に伺ったんですよ。そしたら杉村さんが泣いていてね。
「あんただけね、お酒を持ってきたの」とおっしゃって。
「天国に行っても飲んでね」と声をかけながら、彼女のお顔だけ見させていただいて、お別れしました。
―最後に今回の「太地喜和子特集」の見どころを。
実はこの3作品は僕も知らなかったんですよ。今回、初めて観てびっくりしました。
近松作品は恋に対する想いも、生き方も、すべてが一直線なんです。
燃えたら燃え尽きるまで、水をかけてもまだ燃えているぐらい。
でも、それがまた逆に哀れを感じさせたりする、とても深い作品ですが、20数年前の若々しい太地さんが、その一直線な女を艶やかに演じている。
彼女を観れば、存在そのものが色気と言った僕の言葉の意味がわかりますよ。
人間には"色気"が大事なんです。このドラマで彼女の"色気"をじっくりと味わってみてください。素晴らしいですから。









